裏特許法講座 

***Last updated on 23 April 2000***



 29条の2の規定の趣旨は?
第2章は「特許及び特許出願」について規定しており、29条以下に特許要件が規定されています。このうち、29条の2の規定は、一般に「先願の範囲の拡大」というようなことが言われています。しかし、そうであれば、条文は原則そして例外の順番に並んでいるのですから、先願について規定する39条の次にあってしかるべきです。
にもかかわらず、なぜ29条の次にあるのでしょうか。それは、29条の2の規定の趣旨が29条の新規性に関係するからです。つまり、29条の2の規定の最も重要な趣旨は、「先願の明細書等に記載された発明は、既に特許庁に対して開示されており、秘密の状態を脱しているのであるから、発明開示の代償として特許を付与するに値しない。従って、29条で規定する公知に準ずるものとして拒絶する。」ということなのです。別言すれば、29条の規定に対する拡張的な例外として考えることができるのです。このように、29条の2は準公知の規定ですから、公知を規定した29条の次に置かれています。

 条文の準用と適用除外
条文の準用から色々なことを知ることができます。例えば、再審では、審判の規定が準用されています。これは、裏を返せば、審判の規定は再審には当然には適用されないということであり、つまりは審判と再審とは異なる別個の制度であるということです。再審とは、審判を再度行うことではないということなんです。
一方、前回、審判の規定は拒絶査定不服や特許無効などのいずれの審判にも原則として適用されるといいました。しかし、規定の内容によっては適用の必要がないものもあります。そこで、適用を除外する規定が設けられます。例えば、特許法134条の答弁書提出の規定は、相手方がいない拒絶査定不服審判では適用の余地がありません。そこで、161条でその適用を外しているのです。

 特許法の目次も重要である!
特許法には目次がありますが、ご存知でしょうか。あまり参照されないようですが、この目次だけでも色々なことが理解できます。まず、特許法の規定が手続の順番に並んでいるということがわかります。従って、自分が参照したい条文がどの辺にあるのかということは、その規定が手続上のどの順番にあるのかを考えれば、だいたい予測することができます。
他にも、色々なことがわかります。例えば、審査は「第三章」,出願公開は「第三章の二」に規定されています。つまり、審査と出願公開は、わざわざ「章」を分けて規定されています。これは何を意味するかというと、出願公開は、審査とは関係のない制度であり、審査と関係なく一定の時期になれば行われるということに関係しています。同様に、特許異議の申立ては「第五章」に規定されており、審判は「第六章」に規定されています。従って、異議申立ても審査や審判と関係のない制度であるということになります。
規定の準用も「章」毎に行われます。つまり、審査の規定は審判には当然には適用されません。また、審判の規定は再審には当然には適用されません。しかし、審判の規定は、拒絶査定不服,特許無効などのいずれの審判にも原則として適用されます。また、特許法の規定を他の商標法や意匠法などで準用するときも、この「章」毎に行われます。例えば、特許法「第三章」の審査官の除斥などの規定は、意匠法では、その「第三章」審査の規定の最後にある19条で準用されています。ですから、準用条文を探すときも、この目次の関係を考えると便利です。

 条文は、原則そしてその例外の順序で並んでいる!
例えば、3条(特に断らないときは特許法を指します)には期間の計算の規定があります。つづく4条,5条には期間延長の規定があります。つまり、3条で期間が計算されて期間が原則として定まりますが、その例外として4条,5条で延長されることがあるという順序になっています。
もう一つ例を挙げましょう。17条1項柱書きには「手続をした者は・・・補正をすることができる。」と規定されており、原則として特許庁に継続してしれば補正できることになっております。この手続には、出願の他に審判や証明請求など、各種の手続がすべて含まれます。
これに対する例外の一つは、そのすぐ後に但書きとして規定されており、明細書,図面及び要約書の補正が制限されています。つまり、柱書きで特許庁係属中は原則として補正できますよといっておいて、但書きで・・・の場合を除いて明細書等の補正はできませんよといっているわけです。
また、審判については、前記原則による補正に対し、131条2項で「要旨を変更してはいけない」旨規定されています。つまり、17条1項柱書きの規定で特許庁係属中は原則として審判請求書を補正できるのですが、その例外として131条2項で要旨の変更はいけませんよといっています。条文の位置は離れていますが、原則と例外の順序になっています。

 例外が原則よりも前にある場合もある!
66条から76条にかけて特許権について規定しており、次の77条で専用実施権,78条で通常実施権について規定しています。そして、その次の79条には先使用による通常実施権,80条にはいわゆる無効審判請求前の通常実施権,81条には意匠権存続期間満了後の通常実施権,……という具合に原則とその例外という順序に並んでいます。つまり、78条で原則的に通常実施権を規定し、79条以下で例外として法廷実施権,裁定実施権を規定しています。
では、35条はどうでしょうか。職務発明についての法廷実施権を規定しているのですから、79条以降にあるべきです。では、なぜ35条という変な位置にあるのでしょうか。それは、35条の一番重要な趣旨が「職務発明に対する特許を受ける権利の帰属関係を明確にする」点にあるからです。特許を受ける権利に関する規定である33条の例外として、35条があるのです。
なお、他に、原則が民法,刑法,民事訴訟法などにあり、特許法にその例外が規定されている場合もあります。