改正商標法の利用  

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 はじめに

 一出願多区分制度,立体商標登録制度,団体商標制度,登録後異議申立制度などの導入を柱とする改正商標法がいよいよ本年(平成9年)4月1日から施行され、新法制による出願の受け付けが開始される。改正法の利用に当たって留意すべき点をまとめた。

 一出願多区分制度 

 今回の最も大きな改正点の一つである一出願多区分制度は、同一の商標に対する複数の商標登録(改正前出願も可)に利用すると、管理上有効です。例えば、同一商標で指定商品が異なる商標登録a,b,cがあるとします。このままでは、商標登録a,b,c毎に期限を管理し、更新登録を行わなければなりません。しかし、一出願多区分制を利用して、それらをまとめた出願をします。そして、こちらの出願の方で新たな登録を受ければ、その商標権について期限を管理し更新を受ければよいわけですから、管理の負担が相当低減されます(例えば特許庁工業所有権制度改正審議室編「平成8年改正工業所有権法の解説」205ページ参照)。
 また、商標をバージョンアップしたい,例えば、立体化したい,英語表記を加えたい,図形を変えたい,あるいは団体商標化したいというような場合にも、多区分指定による新規出願が有効です。なお、縦書きを横書きにする,明朝体をゴシック体にするなど、社会通念上同一と認められるものは登録商標の使用として認められますので、その範囲での改変は出願するに及ばないかもしれません。
 更に、以上のような新規出願を行って登録を受けるようにすると、旧分類に基づく古い商標登録は不要となりますので、商品の書換を行う必要もなくなります。ただし、古い登録番号は消えてしまいます。従って、登録番号が古いことに意義があるようなビンテージものの商標登録については話は別で、書換で対応することになります。

 特許庁手数料 

 次に、今回の改正を特許庁手数料の面から検討すると、まず出願料は、指定商品が1区分であれば¥21,000で現行と同じです。しかし、1区分毎に¥15,000手数料が増えますので、例えば3区分では、
    6,000+(15,000×3)=51,000
にもなります。確かに3件出願することからすれば安いのですが、相当の額になります。審判請求料や異議申立料も同様の料金体系です。他方、設定登録料,更新登録料は、いずれも区分数に単純に比例しますので、こちらのほうは3区分1出願の場合と1区分3出願の場合とで変わるところはありません。
 商品の書換時も同様です。書換前の商品が書換後に多数の商品区分にまたがるような場合は手数料が相当額になります。必要のない商品は思い切って捨ててしまうことも必要です。
 また、今回の改正で導入された登録料の分納については、1回で納付するときは設定時で1区分に付き¥66,000ですが、分納にすると合計で¥88,000となって割高です。
 審判請求料は1区分で¥55,000となっており、異議申立手数料の1区分¥11,000と比較すると、決して安いとは言えません。今回の改正で不使用取消審判が「何人」も請求できるようになりますが、手数料の点から見れば、急激に審判請求件数が増えるというようなことはないように思われます。

 指定商品の書換 

 次に、指定商品の書換についてですが、あくまで商品区分を統一するために行われるものであって商標の変更や商品の追加はできませんので、そのような場合には新規出願で対応することになります。書換後の商品が書換前の指定商品の範囲を超えているときは拒絶理由が通知されます。しかし、当初の指定商品の範囲内であれば、補正は許容されるということですので、書換に当たってさほど神経質になる必要はないように思われます。すなわち、書換申請時は多少大風呂敷を拡げておいて、拒絶理由通知があればその段階で縮減するというようなことが可能なようです。
 そもそも、商品区分の統一という商標法制上の理由で書換を行うわけですから、書換申請の審査は相当親切に行われるのではないでしょうか。書換申請に手数料がかからない,事前にその旨の案内があるなどは、その現れであるといえます。
 なお、この商品の書換は、例えば審査官が職権で行うというようなことも可能でした。しかし、これをあえて商標権者に行わせることとしたのは、これを機会に過去の商標登録を見直して不要なものは処分してほしい,別言すれば商標登録におけるバブルを消して贅肉を落としたいという狙いがあるようです。

 立体商標 

 立体商標については、商品の機能を確保するために使わざるを得ない形状について登録を認めると、その商品自体の生産や販売が独占されることになってしまいます。そこで、ありふれた形状の場合の他、形状が商品を普通に表示するような場合や商品の機能を確保するために不可欠な形状のみの場合にも登録を受けることができない規定となっています。また、商品の機能を確保するために不可欠な形状については、商標権の効力が及ばないように配慮されています。
 しかし、実用新案権や意匠権の権利期間が有限であるのに対し、商標権は更新を受けることで権利が永続することを考えると、出願人サイドとしては非常に魅力的であると言ってよいでしょう。出願手続に当たってさほど手間や手数料がかかるわけではありませんので、商標として使用するつもりがあれば、ダメモトでやってみるのも一つの手であろうと思われます。もちろん、実用新案登録出願や意匠登録出願を並行して行うこともできます。なお、このような理由から、他社の商標登録出願には、今まで以上に気を使う必要がありそうです。

 その他の留意点 

 手続上の留意点としては、書類の提出日は記載しなくてもよくなりますが、例えば出願後であって出願番号の通知前に補正書を提出するようなときは、改正後も「平成○年○月○日提出の商標登録願」というように記載して事件を特定します(方式審査基準室で確認)。提出日については、結局のところ記載しておいた方が管理上都合がよいと言えます。また、法人の代表者については、代理人によって出願するときは省略できますが、代理人なしで会社自ら出願するときは省略できません。
 また、出願人の背番号制である申請人登録制度(識別番号付与制度)が商標登録出願や意匠登録出願の手続にも導入されます。申請人登録をけると、例えば会社の名称変更や住所変更などの手続を、出願毎ではなく一括して行うことができます。申請人登録,すなわち識別番号は、その旨の請求があった場合,包括委任状が提出された場合に付与されます。