特許法等の改正  

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 はじめに

 工業所有権審議会の特許法等の改正に関する答申に基づいて、今通常国会に特許法等の改正案が上程された。特許法を中心として概要を報告する。

 特許権の保護強化 

1.損害賠償制度の見直し

 特許権等の侵害により生じた損害(逸失利益)を適正に補償するため、侵害品の販売数量をもとに損害額を算定する方式が導入されます。また、誠実な契約者間の「通常」の実施料を基に賠償額を算定していましたが、個別事情を考慮して適正な水準の賠償額を算定できるように改正されます。

2.刑事罰の強化

 侵害に対する抑止効果を高めるため、公訴の提起に告訴を必要とする親告罪を改めて商標法と同様に非親告罪とするようです。更に、法人に対して罰金刑を課する法人重課が、商標法と同様に特許権侵害にも採用されます。現行商標法では、法人重課は1億5000万円となっています。

 このように、特許権侵害に対する民事上,刑事上の救済を強化する改正は、明らかに権利者に有利に作用し侵害者に不利に作用します。 我が国も、単に特許を取る時代から、本格的な権利を行使する時代に入るといってよいでしょう。今後は、如何に権利行使に強い特許を取るかということが重要です。最近判例集に収録された判決にも、リンゲリーズ錠事件,提灯製造乾燥法事件,位置合わせ載置方法事件,多数本同時伸線装置事件,鉄筋コンクリート有孔梁補強金具事件,トピアス製剤事件,ヒンジ事件など、侵害を容認したものが目立ちます。

 電子出願制度の拡大 

 意匠,商標,審判及び国際出願(我が国を指定国とする場合の国内段階以降後の手続)についても電子出願制度が適用される見込みです。また、磁気ディスクによる手続は緊急時を除いて廃止され、オンラインで手続することになります。更に、中間書類についても電子化手数料徴収の対象となります。今までは中間書類については、明細書の全文補正を書面で行なったような場合でも電子化手数料はかかりませんでしたが、これからはオンラインで手続しないと手数料が徴収されます。

 この改正により、特許庁に対して行なう手続のほとんどがオンラインで行われるようになります。聞くところによれば、特許庁における事務処理効率は、ペーパーレスシステムによって飛躍的に向上したということです。今後、電子化の進展により、審査・審判の要処理期間が飛躍的に短縮されると思われます。すると、会社の特許部門や特許事務所においても、処理案件を滞留させることなく迅速に処理することが要求されるようになるものと思われます。

 優先権書類データの交換

 日,米,欧の三極間で優先権書類データが交換されます。これによって、それらの国に対する優先権主張出願の際に、優先権証明書の提出が簡略化されます。なお、最近は、米国やヨーロッパの他に、韓国,中国などのジア諸国にも出願するケースが多くなっていますので、今後のデータ提供国の増加が望まれます。

 特許料の見直し 

 現行では、3年毎に増額されており、しかも後年になるほど急激に金額が増加します。請求項数が5つの場合、例えば、13年目では246,000円、16年目では492,800円にもなります。このような後年次における高額の特許料負担を軽減し、10年目以降の特許料が平坦化されます。

 手続の簡素化 

 「発明の名称」,「考案の名称」,「国際出願日」,「請求項の数」などの記載が省略され、手続が簡素化されます。例えば、願書に記載された発明の名称と明細書に記載された発明の名称とが相違すると、現在では補正指令がかかり、補正書を提出する必要があります。しかし、たかが発明の名称の補正にそれだけの労力を払うだけの価値があるのかという疑問は、多くの特許実務家が持っていたのではないでしょうか。今回の改正で、そのような手続が不要となることは、まことに喜ばしい限りです。なお、書類の不備に対しては、職権訂正や電話確認による訂正をもっと取り入れてもよいと思います。

 拒絶確定出願等の地位 

 早期審査の促進に伴って出願公開前に拒絶査定が確定するケースが生じますが、この公開前の拒絶確定出願や出願放棄出願について先願の地位を認めない方向で改正されます。また、これに伴って、同日出願について協議不成立の場合には後願を排除できるように改正されます。

 この改正により、いわゆるノウハウ出願は存在意義を失うことになります。ノウハウ出願とは、出願公開前に出願を放棄することによって、他人に技術内容を知られることなく、かつ先願の地位によって他人の出願を拒絶するというものです。今回の改正で先願の地位がなくなると、他人の出願は拒絶できなくなります。

 商標登録証の発行 

 商標権の設定登録時に商標登録証が発行されるようになります。特許,実用新案,意匠については設定登録時に登録証が発行されていますが、商標については登録通知のはがきが送付されるだけでした。このため、商標権者としては、商標登録を受けているという実感を得ることができませんでした。

 我々代理人としても、せっかく商標登録を受けたのに、登録通知のはがき1枚ではクライアントさんに申し訳ないという気持ちを持っており、弊所ではわざわざ委任状を頂いて賞状形式の登録証明を受けるサービスをしてきました。商標登録に伴って商標登録証が発行されることで、商標権者の要望に応えられるものと思います。