平成11年特許法等改正 

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はじめに

 特許,実用新案,意匠については、「早期の適切で強い保護」を目的とした改正が行われた。商標については、マドリッド協定議定書の実施を主な目的として改正が行われた。改正の概要と実務上の留意点を報告する。

 

特許法等の改正

(1)世界公知・公用,ネット公知の採用(特29条,実3条,意3条)

 現行法では、公知及び公用については日本国内のみを対象としていますが、これが世界を対象として適用されます。従って、例えば外国で実施されていたが国内では知られていないような発明の場合、現行法では特許を取得できる可能性があったのですが、改正法では新規性がないものとして拒絶されます。

 また、インターネットに代表されるネット上で利用可能となった発明についても、新規性がないものとして拒絶されます。

(2)新規性喪失の例外(特30条,実準用,意4条)

 現行法では、例外が適用される発明は、新規性を喪失した発明と同一の発明のみでした。すなわち、学会発表等を行った発明については、新規性を喪失しなかったものとして扱われますが、その発明から容易に考えられる発明については、特許を受けることはできませんでした。

 しかし、今回の改正で、学会発表等を行った発明のみならずそれから容易に考えられる発明についても、例外適用を受けることができるようになります。

 一方、出願書類作成上の観点からすると、現行法制では発表した内容と出願する内容が一致しなければなりませんが、改正後は一致する必要がなく、国内優先のような感覚で書類を作成することができます。

(3)審査請求期間の短縮(特48条の3)

 現在、出願から7年の審査請求期間が出願から3年に短縮されます。従って、今までほどのんびりとした管理はできなくなりますが、「3年でケリがつく」と考えれば、むしろスッキリして楽になるのかもしれません。この規定は、平成13年10月1日以降の出願から適用されます。そうすると、平成16年には、7年モードの出願と3年モードの出願の審査請求期限が重なるようになりますので、予算的な手当てを講じておく必要があります。

(4)出願人による早期公開(特64条〜65条)

 出願人の申請による早期公開が可能となります。この場合、補償金請求権はその公開時点で発生しますので、第三者が発明を実施しているような場合には、申請による公開を行って実施行為を牽制することができます。ただし、出願公開の請求は取り下げることができません。一度公開を申請すると、その後出願の取下げや放棄があっても出願の内容が公開されてしまいますので、注意が必要です。

(5)積極否認の特則,文書提出命令の拡充等(改正特許法104条の2、105条,実用意匠準用)

 侵害行為の立証を容易にするため、相手方が権利者の主張を否認するときは、自分の行為を説明しなければならないこととし、それを立証するための書類の提出を命じることができるようになります。例えば、製造方法の特許権について争われているような場合、特許権侵害をしていないと主張するためには、自分が実施している製造方法を説明しなければならないという具合です。

 しかし、正当な理由があるときは拒むことができますし、違反したときの罰則はありませんので、どの程度の実効性があるかは運用に委ねられることになりそうです。

 

商標法の改正

(1)出願公開制度の導入(12条の2)

 特許法と同様に出願公開制度が導入されます。公開の時期は特に決められていませんが、出願後技術的に可能な時期にということであろうと思われます。現在の出願速報が公開公報に昇格するというような感じでしょうか。

(2)金銭的請求権(13条の2)

 今回の改正で新たに創設されました。設定登録前に第三者が出願商標を使用して業務上の損失を生じたときに与えられる権利です。特許法の補償金請求権に相当します。ただし、出願公開は条件とされていませんので、出願後公開前であっても請求権は発生します。そうすると、使用中の商標を第三者に出願されて金銭を請求されるような事態が生じる恐れがありそうですが、先使用権で対抗するということになるのでしょう。そういったことに煩わされたくないというのであれば、商標は登録を受けて使用すべきです。

(3)区分数を減らす補正(68条の2)

 登録料の納付と同時に、区分数を減らす補正ができるようになります。多区分で出願したものの、登録時に不要な区分があるような場合に有効です。余分な登録料を払う必要がなくなりますので、実務上は非常に有効です。

(4)拒絶理由通知を行う期間(16条)

 拒絶理由通知が所定の期間内に行われるようになります。期間は政令で定められますが、1年6月のようです。

(5)マドリッド協定議定書実施のための改正(7章の2)

 マドリッド協定議定書は、国内商標登録もしくは商標登録出願を基礎として国際出願を行って国際登録を受けることで、複数の指定国における保護を確保できる制度です。なお、マドリッド協定とは異なります。出願の言語は、わが国では英語が予定されています。国際登録後の更新も、各指定国毎ではなく一括して行うことができ、各指定国別個に権利を取得する場合と比較すると、手続が大幅に簡略化されるとともに、費用も低減されます。

 アメリカなどが未加盟ですが、イギリス,ドイツ,フランスなどの欧州の国々が加盟していますので、欧州方面における商標登録には便利ではないでしょうか。しかし、アジアでは中国ぐらいですから、ちょっと不便です。今後の加盟国拡大が注目されるところです。しばらくは様子見ということなのでしょうが、こういう制度を上手に利用するかどうかが、結局は競争力の差になって現れるのではないでしょうか。

 なお、上述した出願公開などの改正も、このマドリッド協定議定書実施に伴うものです。